業界別にみる有効求人倍率の現状と変化

はじめに

「有効求人倍率」とは、公共職業安定所(ハローワーク)などに登録されている求人(有効求人数)を、登録されている求職者(有効求職者数)で割った指標です。1倍を超えると、求人の方が求職者より多く、企業側が人を確保しにくい「売り手市場」の傾向が強いことを示します。

2025年の最新データから、業界別・職種別の有効求人倍率には明確な偏りと変化が見られます。以下、主な業界の動きとその要因を整理します。

最新の全体・季節調整有効求人倍率

  • 令和7年6月の有効求人倍率(季節調整値)は 1.22倍。前月比で0.02ポイントの低下。
  • 新規求人倍率は2.18倍。前月比や前年同月比などで上がっている業界もあれば、下がっている業界もあります。

全体としては、1.2倍強で落ち着いているものの、業界・職種によっては引き続き人手不足感が強く、倍率の高い領域もあります。これはコロナ禍からの回復・人口動態・働き手の希望する条件等の影響を受けています。

業界別の有効求人倍率の動き

厚生労働省の「一般職業紹介状況」などをもとに、増加している業界と減少している業界を以下のように整理できます。

増加している業界

  • 情報通信業
    情報通信業では求人数の増加が見られ、求人倍率も業界全体として上昇傾向にあります。令和7年6月には情報通信業での求人が前月比で5.2%増加したことが報告されています。
  • 学術研究・専門・技術サービス業
    技術・研究開発系の業務や専門技術サービスを提供する業界において、人材ニーズが増えており、倍率も相対的に高め。
  • 建設業
    建設業でも求人が増加傾向。公共事業や民間の建築・土木案件がある程度復調してきていることが背景にあります。

減少または伸び悩んでいる業界

  • 卸売業・小売業
    令和7年6月分のデータで、卸売・小売業では求人が11.7%減少。需要は季節変動や消費動向の影響を受けやすく、求人倍率の伸びが鈍いか場合によっては低下傾向にあります。
  • 生活関連サービス業・娯楽業
    アミューズメント、レジャー、観光関連など、コロナ禍の影響からの回復が見えるものの、求人のブレが大きく、有効求人倍率にも変動があります。令和7年6月では9.1%減少という報告もあります。
  • 教育・学習支援業
    学習塾や教育支援施設などの求人は、社会的な需要はあるものの、求人数・倍率ともに他業界ほどの伸びを見せておらず、応募する側の条件の厳しさや待遇の課題が指摘されています。令和7年6月では教育・学習支援業での求人が2.4%減少しています。

職種別の有効求人倍率の顕著な業種

業界だけでなく、職種別で見ると人手不足が特に顕著な職種があります。以下は2025年7月時点等のデータから見られる主な例です。

  • 介護サービスの職業:非常に高い倍率。人材確保が難しい業種のひとつ。
  • 建築・土木・測量技術者:公共・民間問わず技術者不足が深刻で、倍率が高い。
  • 営業/商品販売/接客・給仕職:人手を要する業種として、求人数が多く、倍率も比較的高め。特に販売・接客・サービス業での求人が高水準を維持。
  • 情報処理・通信技術者:IT・通信業界の中でも、専門技術を要する職種での求人倍率の高さが目立っています。

変化の要因

業界別・職種別で有効求人倍率が変化する理由として、以下のような要因が挙げられます:

  1. 人口動態・少子高齢化
    若年層の労働力が相対的に減少する中で、高齢化が進んでいる業界(例:建設、介護)は以前から人手不足が常態化しています。
  2. コロナ禍からの回復と消費動向
    飲食・宿泊・娯楽業界などはコロナの影響を強く受け、回復の過程にありますが、不確実性やコスト上昇の影響で求人を抑制する動きもあります。
  3. 労働条件・待遇の違い
    技術力の要求が高く待遇が良い業界は倍率が高くなる傾向。逆に、賃金や待遇が低い業界では応募が集まりにくく、求人が残ることがあります。
  4. 政策・制度の影響
    働き方改革、最低賃金引き上げ、労働時間の規制などが業界ごとに異なる影響を与えています。建設業や宿泊業、飲食業は残業規制などで採用コストが上がる一方、応募者側の条件も厳しくなりがちです。
  5. デジタル化・技術革新
    IT・通信、情報処理、専門技術サービスなどではDXの進展で需要が急上昇しています。クラウド・AI・ソフトウェア開発など、新技術を扱う業界では人材の取り合いが激しい。

今後の見通し

  • 求人数・求人倍率ともに上昇傾向にあった業界でも、コスト上昇や経営環境の不透明性の影響で、求人を抑える動きが見られる可能性があります。特に物価・人件費の上昇が企業の採用意欲にブレーキをかける要因となるでしょう。
  • 一方で、技術系・専門職・介護など、慢性的な人手不足業界では求人倍率が今後も高めに推移する見通しです。
  • 地方・中小企業においては、待遇面や働き方改善、採用ブランディングなどをうまく打ち出せるかが、人材確保の鍵となるでしょう。

まとめ

業界別に見ると、有効求人倍率は「情報通信」「建設業」「介護サービス」などの業界で高止まり・上昇傾向があり、一方で「卸売・小売」「生活サービス」「教育支援業」などは求人が減少または伸び悩んでいる状況です。職種別でも人手不足の色が強い業種が明確であり、企業の採用戦略の差別化がますます重要になっています。

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